読書感想文日記

読んだ本の感想を言う人がいないのでネットに言うことにしました。

伊坂幸太郎のススメ そのいち

 

伊坂幸太郎が好きなの?私もゴールデンスランバー好きだよ」

伊坂幸太郎ってゴールデンスランバーの人だよね」

伊坂幸太郎って何が有名なの?あ、ゴールデンスランバー?」

 

 

伊坂幸太郎が好きだと伝えると、大抵の人はこんな感じの反応をします。みんな「ゴールデンスランバー」は読んだことあるらしい。

 

わざわざ言うまでもないけど、彼は「ゴールデンスランバー」一発芸人ではない。読む人を問わない作風は、子供から大人まで幅広い支持を得ています。

 

まごうことなき、今をときめく人気作家。

 

ただ、作品の知名度でいうと、「ゴールデンスランバー」が圧勝。堺雅人主演で映画化してるし。次点で「重力ピエロ」「砂漠」「アヒルと鴨のコインロッカー」あたりが人気なのかなと個人的には感じています。

 

ゴールデンスランバー」有名すぎじゃない?

 

という私の個人的な不満から(作品に罪はない)、伊坂幸太郎の作品の良いところをひとつずつ網羅していってやろうじゃないかという記事です。長いです。

 

もちろん、あんまり好きじゃないなあって作品もあります。誰にだって好みはある。盲目的な信者ではない、ただ彼の作品がちょっと好きな若者による伊坂幸太郎のススメです。

 

単行本の出版年数順に並べてあります。

ネタバレ要素はないと思うので、未読の人も安心してください〜。

 

 

 

①オーデュボンの祈り

喋るカカシと鎖国を続ける不思議な島に迷い込んだ青年の話。寓話っぽいちょっと不思議な話。「少し不思議で少し現実」って伊坂幸太郎らしさの一つにあるのかなと思っているのですが、この作品はまさにそれ。フィクションから半歩現実よりというか。これ好きなら伊坂幸太郎全部いけると思う。ほら、デビュー作って作者の全てが詰まってるっていうじゃないですか。

 

 

ラッシュライフ

泥棒の黒澤と信仰宗教にハマる人間の物語。バラバラ死体が出てきたりと不穏なはずなのに、トリッキーな構成とテンポの良い会話のおかげか、不思議とページをめくる指は軽やか。ミステリーや謎解きが好きな人は癖になるはず。物語のはじめには、タイトルにある「ラッシュ」の英語の意味がいくつか示されている。伊坂幸太郎の言葉遊びのセンスがとても好みなのだが、この話は特に唸らされた。

 

 

陽気なギャングが地球を回す

個性的な4人の強盗たちの愉快な話。伊坂幸太郎の「会話のテンポ」が好きなら絶対にハマる。4人の掛け合いが楽しいことこの上ない。軽快な会話の応酬は、まるで演劇か映画を見ているかのよう。文字を目で追いかけているはずなのに、耳が理解する不思議な体験ができます。

 

 

④重力ピエロ

はい、一番好きな作品。「弟は母親が見知らぬ少年にレイプされた結果生まれた」という最も現実的で絶望的なテーマにもかかわらず、優しくてあたたかい物語。好きすぎてこれで卒論書きました。悲しさと優しさという相反するものが共存する不思議な作品。読んだことない人もきっとどこかで聞いたことある名ゼリフがたくさん。蛇足ですが、加瀬亮岡田将生主演で映画化もされてます。みんな大好き塩顔男子。脚本の良し悪しは別として、キャスティングが最高なので、こちらも是非。

 

 

アヒルと鴨のコインロッカー

たしか一番はじめに読んだ作品。広辞苑ブータン、暇を持て余した若者、動物虐待。キーワードを並べると一番意味不明なのがこの作品。「悲しくて優しい」と「優しくて悲しい」がどちらも成立している不思議な作品。伊坂幸太郎の作品、全部不思議説。映画化もされていて、作品の世界観というか雰囲気をうまく表現しているのでそちらもオススメ。

 

 

⑥チルドレン

家庭裁判所の調査官が罪を犯した少年やその周囲の人物と向き合っていく物語。え、真面目そう?そんなことありません。破天荒な先輩や、盲目の青年とゴールデンレトリバーがうまい具合に物語をかき乱してくれます。個人的には一番読みやすいかなと思うけど、構成が複雑だから一筋縄じゃいかない。でも、とりあえず手軽に本が読みたい気分の人にオススメ。

 

 

グラスホッパー

お?路線変更か?デビュー当時から応援していた人はこう思ったはず。他の作品と比べるとかなりシリアス。妻を殺した男を復讐しようとするが、冒頭で別の人に先を越される。出落ち、なのに面白い。とにかく、伊坂幸太郎の作品史の中でかなり異色だと思う。描写がリアル。においの描写が特に多い。いわゆる「伊坂らしさ」に飽きてきたら是非。

 

 

⑧死神の精度

小学生の頃読んで、あんまり好きじゃないという記憶が強い。読み返しても好みじゃなかった、無念。嫌いなわけではないけど、私の琴線には触れず。理由を考えてみたところ、真面目な人間と変人が両方出てくる作品が好きなんだと気づいた。死神の千葉は真面目で変な人間なんだけどさ、なんかさ。純粋無垢な変人がいないのがちょっと物足りないのかもしれない。

 

 

⑨魔王

タイトルが不穏、物語も不穏、なのに読後感が良い。不思議。超能力を手に入れた主人公が、それを使って政治家に立ち向かう物語。圧倒的なカリスマに惹きこまれる大衆と、独裁的な力に1人危機感を覚える主人公の対比が良い。現実から半歩フィクション。「ゴールデンスランバー」みたいな何かに立ち向かっていく対決の構図が好きならオススメ。ドキドキとハラハラが止まらない。

 

 

⑩砂漠

若者に大人気。隠れ名作。5人の男女のちょっと変わった大学生活を描く。わたくし、「ハチミツとクローバー」とか「オレンジデイズ」で大学生活への憧れを抱きながら育ったのですが、「砂漠」でその憧れが臨界点突破。こんな大学生活が送れるんだ〜と期待と憧れを密かに抱き続けていたのですが、現実はいかに。とにもかくにも青春群像劇がたまらなく好きなあなたにオススメ。青春真っ只中の人も、もう過ぎてしまった人も、きっと何かに気づくはず。

 

 

⑪終末のフール

あと3年で世界が滅びるという壮大な設定。出落ち感がすごいのに面白いから不思議。パニックを描くのかと思いきや、まさかの小康状態。穏やかに死を受け入れていく人もいる、抵抗を試みる人もいる、日常を生きる人もいる。小康状態でないと分からない人々の死への不安や日常を生きることへの意味などが丁寧に描かれている。全然怖い話じゃないよ。ヒューマンドラマ。

 

 

⑫陽気なギャングの日常と襲撃

陽気なギャングシリーズ、待望の第2作。前作然りだけど、オリジナルのことわざや辞書風の解説など、伊坂節満載。なんか同じ日々の繰り返しで毎日疲れたなあ、なんて思っているそこのあなた、強盗たちが日々に彩りを与えてくれますよ。

 

 

⑬フィッシュストーリー

短編集。一番好きなのが表題作の「フィッシュストーリー」売れないバンドマンの売れない曲が起こした奇跡の話。「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」って言う一節が出てくるんですけど、なんかロックでかっこよくないですか?わけわからんけどかっこいいってもうロックじゃん。伊坂幸太郎、ロックかよ〜ってなりますたぶん。このフレーズ、斉藤和義が曲にもしてますよ。

関係ないけど、斉藤壮馬(声優)が同じタイトルの歌を歌ってます。作品とは本当に関係がない。楽しい曲だけどどこかセンチメンタルで個人的オススメソング。作詞は大石昌良ジャパリパークの人。本当に蛇足。

 

 

ゴールデンスランバー

みんな大好きゴールデンスランバー。言うことなくない?他の作品に比べて起承転結がしっかりしてるから、まるで一本の映画を見ているよう。実際に映画化もされてます。あの男が主演です。喜怒哀楽すべての感情を「笑顔」で表現する俳優、堺雅人。不気味すぎる。伊坂幸太郎の心情描写とマッチし過ぎ。かなり面白いのでオススメです。大事な場面でビートルズの「Golden Slumbers」のサビが流れるのまた良い。映画見た後に小説を読むと、パブロフの犬的にポールの歌声が聞こえてきます。ビートルズいいよね。

 

 

 

長くなってしまったので、今回はここまで。個人的には「ゴールデンスランバー」で伊坂幸太郎第一章が幕を閉じたかなあと感じたり。

 

第二章は「モダンタイムス」で幕を開けます。有名になると押し寄せてくるもの、それは「らしさ」の呪い。らしい作品だとありきたりだと言われ、らしくない作品を出すと路線変更か?と笑われる。第二章は迷走の時代です。

 

では、気が向いたら更新します〜。

 

 

雪の下のクオリア

 

さて、記念すべき最初の記事にどの作品を選ぼうと悩んだ結果、紀伊カンナさんの『雪の下のクオリア』について書くことにしました。

 

雪の下のクオリア (H&C Comics CRAFTシリーズ) https://www.amazon.co.jp/dp/4813031145/ref=cm_sw_r_cp_api_i5R6Bb34YH0G8

 

紀伊カンナさん、ご存知でしょうか。

 

私も詳しくは知りません。元イラストレーター(どこで聞いたか忘れましたが確かそうだったはず。違ったらすみません。)で、現在は漫画を描いたり、挿画を描いたりされてます。優しくて繊細な絵が印象的です。エトランゼシリーズが有名なんじゃないでしょうか。

 

先に挙げたエトランゼシリーズも、今回お話しようとしている作品も、どちらもBLです。そう、男の子と男の子の恋愛を描いているのです。(もちろんBLじゃない作品も描かれています。)

 

BLというと苦手意識を持たれる方も多いでしょう。かくいう私もその傾向はあります。偏見かもしれませんが、女性の欲望を丸ごと閉じ込めた感じがして怖いのです。現実の世界の話ではなく、あくまでもお話の中だけのことです。読み手の強い意志が透けて見えるのも苦手の理由かもしれません。(いわゆる百合も同じ理由で遠ざけてしまいがちです)嫌いなわけではないのですが、わざわざ好んで読もうとまでは思わないジャンルです。

 

では、なぜ『雪の下のクオリア』について書き連ねようと思ったのか。

 

それは、私が『雪の下のクオリア』を好きだからです。好きになった作品が、『雪の下のクオリア』だったからです。いま言ったことは結構大事なことです。好きになった作品が、たまたま男の子同士の恋愛を描く作品だったのです。

 

 

導入が長くなってしまいましたが、ここからが『雪の下のクオリア』の感想です。お待たせしました。

 

このお話は、大好きだった人に愛されなかったという傷を抱えたふたりが出会い、お互いに変わっていく物語です。(断定口調ですが、私が勝手にこう解釈しているだけです。どんなお話でも、色々な読み方がありますよね)

 

ゲイの海は、中学生の頃、初めて好きになった男の人(塾の先生)と想いが通じあったと思いきや、捨てられてしまう。それからは、男の人と一度きりの関係を繰り返すことで、孤独を紛らわせて生きる。

 

もう一人の登場人物アキは、小さい頃に父親が他所に女を作って出て行ってしまったという過去を持つ。だらしない父親を嫌いながらも、かつて父が喫っていた煙草を喫いつづけ、父に教えてもらった植物図鑑を大切に所持している。

 

過去に負った傷をどうやり過ごすか、という点でふたりは対照的です。海は貰えなかったものを他者に求め、アキは居なくなった人の気配をずっと側に置き続ける。

 

「誰かに愛されたい」と切実に願っていることが伝わる海の生き方。その「誰か」が分からないから、不特定多数にそれを求めてしまう。

 

では、アキは何を願っているのでしょうか。

 

嫌いなはずの父親との思い出を傍に残している、という感覚は私にはよくわかりません。むしろ、私はなるべくそれを遠ざける方法をとり、存在を忘れようと尽力するほうだからです。

 

同様に、海もアキの感覚が新鮮に映ったようです。

 

「先輩って 自分で嫌いってわかってる事も 傍に残したり 忘れない様にしているでしょう。オレは そういう感覚 全然無かったから びっくりしたんですよ」

海の台詞は続きます。

「オレ…多分 先輩の事 好きなんですよ」

 

この脈絡のなさが衝撃的でした。脈絡がまるでないはずなのに、海がアキのこと本当に好きだったちゃんと伝わってくる。不思議です。きっと、この台詞が放たれる前に、海の視線とか動きとか台詞がきちんとアキに向かっているからです。だから、一見脈絡がないようでも、本当に好きだということが伝わるのです。

 

少し話が逸れてしまいました。

 

先ほど立てた問いは、アキは一体何を求めているのか、ということ。愛されなかった傷を持ち続けながら、何を求めて生きているのか。

 

海が「誰かに愛されたい人」だとしたら、アキは「誰かを愛したい人」ではないでしょうか。

 

きっとアキは父親のことが大好きだったはずです。好きじゃなければ、思い出を傍に置き続けたりしないでしょう。そして、今でも父のことが好きなはずです。でも、好きとは言えない。なぜなら、愛してもらえなかったから。勝手にいなくなってしまったから。

 

しかし、父を許したいと思う気持ちもあるはずです。そうじゃなかったら、わざわざ古い銘柄の煙草を喫い続けていることに説明がつかないでしょう。

 

きっと、アキの中では「父を許したい」と「誰かを愛したい」がほぼイコールになっているのではないでしょうか。父を許した末に、誰かを愛せる、とも言えるかもしれません。

 

ふたりは互いの中を深めていく中で、相手の傷を癒していきます。愛されたい海と、愛したいアキ。海の一方的にアプローチから始まった交流でしたが、アキもきちんと海に近づいていきます。例にもよって、視線や行動、台詞によって感じることができるのです。徐々に、それらが海に向かって放たれていると思わせるような描写が印象的です。

 

物語の最後、アキが想いを伝えるシーンがとても素敵です。「好き」という言葉を使わなくても、相手を思いやっていることが十分に伝わる台詞。さわやかな春の風を頬に感じながら、ふたりの未来に想いを馳せてしまいます。

 

アキと海の人生に、幸多からんことを。

 

 

 

 

次回は、違国日記か私の少年についてつらつら書き連ねたいと思ってます。が、予定は未定なので全然違う作品を取り上げてるかもしれませんし、飽きてブログ自体をやめてる可能性もあるでしょう。